監督、脚本
ウニー・ルコント
Ounie LECOMTE
1966年11月17日、韓国ソウル生まれ。
9歳の時にフランスパリ郊外サン=ジェルマン=アン=レー在住の、父親が牧師をしているプロテスタントの家庭に養女として引き取られた。その後、パリの服飾専門学校ステュディオ・ベルソーでドレスデザインを学び1989年に卒業。学生時代に、日刊紙リベラシオンの求人で、映画の撮影にアジア人女性を探している記事を見て応募、映画の仕事を始める。その後シャニ・S・グレウォール監督の「After Midnight」(90)や、オリヴィエ・アサイヤス監督『パリ、セヴェイユ』(91)に出演。同年、ソ・ミョンス監督「SEOUL METROPOLICE」で自分のルーツを探す孤児の娘を演じるため、渡仏後初めて韓国に戻る。この撮影についての記事が新聞に掲載され、それを読んだ実母が訪ねてくるという出来事があった。出演するはずだったこの映画は未完のままになっている。その後、オリヴィエ・アサイヤス監督の「Une Nouvelle Vie」(93)で衣装デザインのアシスタントとして、ソフィー・フィリエール監督の「Grande Petite」(94)では衣装デザイナーとして参加。映画界に身をおきながら徐々に自身で脚本・監督した作品を作りたいとの思いを募らせ2001年、中絶を題材とした短篇「Quand le Nord est d’Accord」を監督し、オーバーハウゼン国際短編映画祭に出品された。ファッションエディターとして働く傍ら、2006年に、FEMIS(フランス国立映像音響芸術学院)が開講している脚本執筆のワークショップ(映像・演劇分野での2年以上の経験者から選考)に参加し、『冬の小鳥』の脚本を執筆した。その脚本を読んだ巨匠イ・チャンドンがプロデューサーとして名乗りを上げ、フランスと韓国で結ばれた〈映画共同製作協定〉の第1号作品として完成にいたる。『冬の小鳥』は2009年、第62回カンヌ国際映画祭に特別招待作品として出品され、同年、第22回東京国際映画祭〈アジアの風部門〉で最優秀アジア映画賞を受賞。2010年には、第60回ベルリン国際映画祭でドイツ児童救済事業協会スペシャル・メンション、パームスプリングス国際映画祭2010でニュー・ボイス/ニュー・ヴィジョン賞、第12回ソウル国際女性映画祭ではアジア女性映画祭ネットワーク賞を受賞している。長編二作目である『めぐりあう日』は、監督が構想する『冬の小鳥』から続く三部作の二部にあたる。
冬の小鳥
ウニー・ルコント監督の記念碑的映画『冬の小鳥』は、9歳のときに養子として韓国の養護施設からフランスへと渡った監督自身の体験を基にしている。
現実的な部分はすべて創作であり、そこに流れる感情だけが本物だったと監督が語っている通りに、主人公の9歳の少女の絶望、怒り、期待、不安がリアルに迫ってくる、鮮烈なデビュー作である。
映画『めぐりあう日』の原題
「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」について
ウニー・ルコント
「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」は、アンドレ・ブルトンの著書『狂気の愛』の終わりにある、娘に宛てた手紙の最後の文章です。この本を読んだのは私が25歳の時で、それからほぼ同じくらいの年月がたちました。
私は、衝撃、直感、必然のように、ふと考えが心に浮かぶことがよくあります。
私にとって特別なこの文章も突然に記憶から浮かび上がってきて、映画の題名として不可欠のものとなりました。 すぐに、私は映画がこの手紙の一節で終わるだろうということも直感しました。
人は捨てられたとき、あるいは孤児となったとき、同時に言葉の孤児となります。つまり親の言葉をもたないということです。それはあなたを導き、人生に意味を与えてくれるような言葉なのに。
「あなたが狂おしいほどに愛されることを ―― 」という文章はひそかに、自分のルーツ、アイデンティティ、自分の歴史を求めるエリザを探求へと導いていったと同時に、その輝きと息吹によって、私を映画の本質の探究へと導いてくれたのです。