〔エリック・ロメールの後継者〕ミア・ハンセン=ラブ × 〔フランスの至宝〕イザベル・ユペール
この奇跡のコラボレーションが次の扉を開く勇気をくれる。
第66回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、銀熊(監督)賞に輝いた『未来よ こんにちは』。
『あの夏の子供たち』、『EDEN/エデン』など瑞々しい感性と柔らかな語り口で、弱冠35歳にしてエリック・ロメールの後継者と称されてきたミア・ハンセン=ラブ監督が今回の主役に据えたのは50代後半の女性。
フランスの大女優イザベル・ユペールを想定して脚本を書いたというだけあって、彼女の魅力が最大限に引き出され、孤独や時の流れをしなやかに受け入れていくヒロインが鮮やかに誕生した。
今、フランスでもっとも注目を集める監督と女優が生み出した、愛に満ちた感動の人間ドラマだ。
孤独と自由は背中合わせ。目をこらせば見えてくる幸せがここにある。
パリの高校で哲学を教えているナタリーは、教師の夫と独立している二人の子供がいる。
年老いた母親の面倒をみながらも充実していた日々。ところがバカンスシーズンを前にして突然、夫から離婚を告げられ、母は他界、仕事も時代の波に乗りきれずと、気づけばおひとり様となっていたナタリー。
まさかというくらいに、次々と起こる想定外の出来事。だがナタリーは、うろたえても立ち止まりはしない。「孤独」や「時」は残酷であるけれど、そうまんざら悪いことばかりでもない。孤独は自由を手に入れることであり、自分のための時間が増えることでもある。まだまだ輝く未来が必ずある、そう信じるナタリーの姿は、今を生きる私たちのエイジングへの“怖れ”を吹き飛ばしてくれるに違いない。
美しい自然と音楽で表現される人生の点描画
ブルターニュの海、パリの新緑の輝き、フレンチ・アルプスに降り注ぐ美しい光線など、大いなる自然のおおらかさ、そして悲しみの中にも存在するユーモア。 『未来よ こんにちは』からは、さまざまな色が混在して成立する点描画のような人生が浮かび上がってくる。
また、映像の美しさと共に、シューベルトの「水の上で歌う」、映画『ゴースト/ニューヨークの幻』でもおなじみの甘い旋律の「アンチェインド・メロディ」など、観る者を優しく包んでいく音楽も印象的だ。ボブ・ディランの師匠ともいえるウディ・ガスリーの楽曲でも監督のセンスが光る。
共演は、結婚25年目にして離婚となる夫に、フランス映画界の大ベテラン、アンドレ・マルコン。ナタリーが寵愛する教え子・ファビアンを、『EDEN/エデン』のロマン・コリンカ。認知症気味の母に『夏時間の庭』のエディット・スコブ。 “エッジのきいた”母娘の会話、まさかの行動に出た夫との訣別、教え子に垣間見せる女心など、主人公ナタリーの心模様を彩る布陣も秀逸である。