Introduction

冬の雪深い山小屋。猫一匹と暮らす、ひとりの男。 やがて男は、カメラに向かって語り始める―。 自分との葛藤への大胆な提案がここにある。

自分”で“自分”を徹底的に見直した、 究極の“セルフ自問自答”ドキュメンタリーにして、 前代未聞のエンタテイメント!

カンヌ、ベルリン、ヴェネチア。世界三大映画祭を制覇した世界が認める鬼才キム・ギドク。ほぼ1年に1本のペースで精力的に映画を作り続け、常に世界から新作が待ち望まれる監督の一人であった。ところが、オダギリ ジョーを主演に迎えた話題作『悲夢』の撮影中に起きた事故をきっかけに表舞台から姿を消し、ぷっつりと消息を絶っていた。

3年間、彼は一体どこでなにをしていたのか―? なぜ映画を撮らなかったのか? その謎は本作『アリラン』ですべて明かされる。仲間の裏切り、国内での低い評価と国際的な名声とのギャップ、そして消せない劣等感…。栄光の影で人知れず傷を深めていった人間の心の叫びが、カメラに向かって語られる。

だが、悲痛な吐露だけに終始はしない。自分に尋ねる自分と、答える自分、そしてそれを客観的に分析する自分と、阿修羅像も顔負けの一人三役を演じるばかりか、自身の影まで登場させるなど観客を楽しませる仕掛けを凝らすのだ。さらには殺し屋にまでなってしまうという奇想天外な展開もスリリングだ。転んでもタダでは起きない精神と鬼才の面目躍如といえる大胆不敵な演出で異色のエンタテインメントへと昇華させていく。

人間誰しも自信をなくし、殻に閉じこもってしまいたくなるような痛みを抱えて生きている。その痛みを忘れる日もいつかは来るかもしれない。しかし、正面切って向き合うことで、痛みもいつしか自分の血肉となるということを鬼才は本作で証明した。ひとりの人間の心の叫びが、唯一無二の作品へと結実していく様は、ある種の感動を呼ぶだろう。

タイトルの「アリラン」とは、「自らを悟る」という意味を持つ代表的な朝鮮民謡。 ♪アリラン 上り坂 下り坂♪という歌詞は、まさに上っては下る人生そのものを表現している。その旋律は、監督自身の栄光と挫折だけでなく、現代を生き抜こうとする私たちの人生をも象徴するようで胸に染み入ってくるはずだ。 最優秀作品賞に輝いたカンヌ国際映画祭授賞式で、監督の「アリラン」を熱唱、鳴り止まないスタンディングオベーションに包まれた。また2011年東京フィルメックスでは、痛みから立ち上がった彼の姿は熱狂的な支持を得て、観客賞を受賞した。

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