ストーリー
「遥かなる天の百合よ 枯れてもまた芽生えよ 我らの愛が滅びぬように」
アンテロ・デ・ケンタル(注1)
ドウロ河流域の小さな町。雨が降りしきる夜半、町に1軒しかない写真店に、富豪の邸宅ポルタシュ館の執事がやって来て、急ぎの写真撮影を依頼する。だが、店主は明後日まで不在と知らされ途方に暮れる執事。その様子を見ていた通りがかりの男が、執事に別の写真家を紹介する。最近町にやって来た、石油関係の仕事に従事するセファルディム(注2)の青年で、写真が趣味らしい。執事は、さっそくその青年イザクの下宿を訪れる。
イザクは、若くして死んだ娘アンジェリカの写真を撮って欲しいという依頼に、最初は難色を示すが、下宿屋の女主人に勧められ執事に同行。山手にあるポルタシュ館には、アンジェリカの死を悼む親類縁者が集まっていた。
イザクの名前を聞いて、一瞬顔を曇らせるシスターの姉に、「僕個人は宗教に何の興味もない」と言って安心させるイザク。
案内された部屋の中央には、白い死に装束に身を包んだアンジェリカが、青いソファにひっそりと横たわっていた。彼女の母親に促され、カメラを向けるイザク。ところが、ファインダーを覗きピントを合わせた途端、アンジェリカが瞼を開き彼に微笑みかける。イザクは、驚いて後退るものの、気を取り直して撮影を終わらせ、早々に邸を後にする。
翌朝、写真を現像すると、3枚の写真の中の1枚に写ったアンジェリカが、再び瞼を開いて微笑む。
イザクは朝食も摂らずに、歌いながら葡萄畑を鍬で耕す、農夫たちの写真を撮りに出かける。教会では、アンジェリカの葬儀が厳かに執り行われていた。
夜、ベッドで寝ていたイザクが、ふと起き上がってアンジェリカの写真を手に取ると、バルコニーに彼女が現われる。2人は抱き合ったまま宙に舞い上がり、木々の間やドウロ河の上を浮遊し、やがて夜の空へと昇っていく…。「アンジェリカ!」と叫んで飛び起きるイザク。
「幻か?いや、まるで現実だった。これが話に聞く絶対愛なのか?」。イザクは、アンジェリカの写真を食い入るように見つめる。
下宿屋の食堂で、下宿人たちが客人を交えて、世界的経済危機や大気汚染について談義。やがて話は物質と反物質の関係へと発展し、そこで「エネルギー」「魂」の単語を小耳にはさんだイザクは、思い当たったように「アンジェリカ」と呟いた。
数日後、イザクの部屋に迷い込んだ小鳥と入れ違いに、またも現れるアンジェリカ。その朝、下宿屋の食堂に置かれた鳥籠の小鳥が死んだことを知ったイザクは、狂ったように外に飛び出していく。
注1:アンテロ・デ・ケンタル=19世紀後半のポルトガル実証主義を牽引した詩人。
注2:セファルディム=15世紀前後に南欧諸国に移り住み定住したユダヤ人たち。